この研究は、最近の報告(5 mT、50 Hzの方形波の超低周波磁界(ELF-EMF)のばく露を受けたヒト精子に運動性改善が生じた)について、エネルギー代謝とELF-EMFによるヒト精子運動性刺激効果との関係を検討するための実験を行った。その結果、まず、ELF-EMFばく露を受けた精子において、精子の運動学的パラメータに関連するミトコンドリア膜電位およびATP、ADP、NAD(+)のレベルの漸進的かつ有意な増加が示された;ATP / ADP比およびエネルギーチャージなどの他のパラメータについて有意な影響は検出されなかった;カルバモイルシアニドm-クロロフェニルヒドラゾン(CICCP)処置によりミトコンドリアの酸化的リン酸化を阻害した場合、グルコース存在下でインキュベートされ、ELF-EMFばく露を受けた精子のエネルギーパラメータおよび運動性は変化しなかった;このことから、解糖は、ELF-EMFによる運動性刺激効果には関与しないことが示唆された;対照的に、グルコースの代わりにピルビン酸と乳酸が添加された場合、ELF-EMFばく露を受けた精子のエネルギー状態と運動性は有意に増加した;この培養条件下で、2-デオキシ-D-グルコース(DOG)により解糖代謝を阻害した場合、エネルギーおよび運動性パラメータの増加が再び生じた;このことは、糖新生が、解糖のためのグルコース生成に関与しないことを示唆する;総括すると、ELF-EMFによるヒト精子の運動性刺激効果を媒介するのは、解糖ではなくミトコンドリアの酸化的リン酸化であると推定される、と報告している。
超低周波電磁界にばく露したヒト精子において、精子の運動性とエネルギー代謝との関連を調べること。更に、超低周波電磁界による精子の運動性の向上に対する、ミトコンドリアの呼吸と解糖のエネルギー寄与も評価した。加えて、解糖(グルコース)またはミトコンドリア(乳酸及びピルビン酸)基質を添加した場合、ならびに、解糖またはミトコンドリア代謝を抑制した場合にも、同じ評価を実施した。
先行研究(Iorio他、2007参照)では、5mT、50Hzの矩形波超低周波電磁界はヒト精子の運動性を促進できることが示されている。
ミトコンドリアの活性を抑制するため、カルバモイルシアニドm-クロロフェニルヒドラゾン(CICCP)を含む培地で精子をインキュベートした。解糖代謝を抑制するため、2-デオキシ-D-グルコースを含む培地で精子をインキュベートした。
全ての実験を少なくとも5回反復した。
周波数 | 50 Hz |
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タイプ |
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波形 |
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ばく露時間 | continuous for 1 h, 2 hr or 3 hr |
Modulation type | pulsed |
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Duty cycle | 50 % |
ばく露の発生源/構造 | |
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ばく露装置の詳細 | 200 mm long solenoid with a diameter of 160 mm amd 511 turns placed in an incubator with a constant temperature of 37° C, 100 % relative humidity and an atmosphere of 95 % air and 5 % CO2; constant magnetic field in a 10 mm long cylindrical region with a diameter of 10 mm inside the solenoid; samples placed in the core of the solenoid |
Sham exposure | A sham exposure was conducted. |
測定量 | 値 | 種別 | Method | Mass | 備考 |
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磁束密度 | 5 mT | - | 測定値および計算値 | - | - |
超低周波電磁界ばく露は、ミトコンドリアの膜電位、ならびにATP、ADP及びNAD+のレベルに漸進的な、有意な増加を生じ、これらは精子の動態パラメータの漸進的な、有意な増加に関連していた。ATP/ADP比やエネルギーチャージ等のその他のパラメータには有意な影響は検出されなかった。ゆえに、このデータは、超低周波電磁界によって惹起された、精子の運動性の特徴に対する刺激作用は、ミトコンドリア膜電位ならびにATP、ADP及びNAD+のレベルに関連していることを示しており、このことは、鞭毛運動に必要とされるエネルギー生産におけるミトコンドリア膜の重要な役割を示唆している。
ミトコンドリア活性が抑制され、グルコースが(解糖を促進するための)培地での唯一のエネルギー源である場合、超低周波電磁界にばく露した精子におけるエネルギーパラメータの値及び精子の運動性は変化しなかった(偽ばく露精子サンプルとの比較)。ゆえに、精子の運動性に対する磁界の刺激作用の仲介には解糖は関与しなかった。
対照的に、グルコースの代わりに(ミトコンドリアの基質として)ピルビン酸と乳酸を与え、2-デオキシ-D-グルコースによって解糖を抑制した場合、電磁界ばく露した精子サンプルではエネルギー状態及び精子の運動性が有意に上昇した。
結論として、このデータは、ヒト精子の運動性に対する電磁界の刺激作用の仲介におけるミトコンドリアの重要な役割を明らかにした。
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