遺伝毒性

(2016年4月時点の英文ウェブページの和訳です)

遺伝毒性とは、生物学的、化学的、物理的な有害作用因子により細胞の遺伝的物質(DNA/RNA)が損傷または変化を受けることです。ただし、細胞または動物の実験で遺伝毒性が陽性と判定された物質が必>ずしもヒトに対して発がん性があるわけではありません。その理由は、第一に、発がんプロセスは長期的で多段階のプロセスであること、第二に、イン・ビトロまたは動物試験のデータを制約なくヒトへ移
転させることはできないことの2つです。さらには、ヒトおよび高等生物も広範囲のDNA修復メカニズムをもつからです。

電磁界遺伝毒性影響は、次の方法で大部分が研究されています:染色体異常の研究、姉妹染色分体交換頻度の測定、コメットアッセイおよび小核試験。

試験された生物の多様性、適用された手法の違いのために、無線周波電磁界によるDNA損傷誘導に関する研究の評価は難しいものです。このことは、多くの国内および国際的委員会のさまざまな文書にも表>れています。

国際非電離放射線防護委員会ICNIRP)は、無線周波電磁界の影響の評価に関するレビュー(p. 273)で、イン・ビボおよびイン・ビトロの遺伝毒性研究のどちらにお
いても全般的に影響は見られないと結論しています。

国際がん研究機関IARC)は、無線周波電磁界ばく露により引き起こされる遺伝毒性影響を支持する証拠は弱いと判定しました(IARC 2013, p. 415)。IARCワーキ>ンググループの要約は、哺乳類の遺伝的損傷に関する実験研究の約半数が、ばく露装置の説明、サンプルサイズの小ささ、熱的影響を制御していないことに関連した限界を有していたと述べています。残り
の研究の多くは満足すべき、比較可能な品質でしたが、相反する結果を示しました(p. 414)。またIARCワーキンググループは、多くのイン・ビトロ研究で熱的影響の可能性に関する弱点も認めています。
熱的影響がおそらく排除されたと思われる研究の結果は大部分が影響を否定するデータまたは相反するデータを示しました。

欧州レベルでは、新興・新規同定された健康リスクについての科学委員会(SCENIHR)が、一部の研究はDNA鎖切断および紡錘体異常を観察したものの、遺伝毒性に関する研究の大半において許容可能レベル
ばく露での影響は測定されなかったと結論しています(SCENIHR, 2015, p.101 f)。

ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省のドイツ放射線防護委員会(SSK)はその携帯電
話関連の生物学的影響に関する声明(2011, p. 8, ドイツ語)
において、文献からは無線周波電磁界による遺伝毒性影響の証拠に関して合理的で科学的な疑念は生じず、遺伝毒性影響の証拠は弱いと結
論しています。

スイス連邦環境省(BAFU, 2014, p. 30)もまた、単に影響は観察されてはいても、無線周波電磁界ばく露で直接的に引き起こされるDNA損傷を支持する証拠は不十分なものしかないと認めています。

結論として、国際および国内の専門家委員会は、許容可能レベルの無線周波電磁界による遺伝毒性影響を支持する十分な証拠を認めていません。無線周波電磁界の影響に関する WHOからの新しい声明 は2016年に公表予定です。

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