高強度で低周波(1-100 kHz)の時間変動する電磁界は、神経系の興奮を通じて人体を刺激する。電力周波数(50/60 Hz)では、培養ニューロンネットワークにおいて外部電界によって生じるニューロン変調の周波数依存性の閾値が、国際ガイドラインにおける生物学的指標の一つに用いられているが、磁界によって生じるニューロン変調の閾値はまだ解明されていない。この研究は、ラットの脳由来のニューロンネットワークを高強度の電力周波数磁界にばく露し、同期バースト活性の変調を、多電極アレイ(MEA)ベースの細胞外記録技法を用いて評価した。短期ばく露(50-400 mT rms、50 Hz正弦波、6秒間)の結果、同期バースト活性は400 mTばく露群で増加した。他方、50-200 mTばく露群では変化は認められなかった。400 mTの磁界ばく露によって生じるニューロンの応答の機序を解明するため、阻害性シナプスを遮断後のニューロンの応答を、ビククリンメチオジド(BMI)を用いて評価した。その後、BMI適用によりバースト活性の増加が認められ、400 mT磁界ばく露への応答は消失した。よって、高強度の電力周波数磁界ばく露の応答は、阻害性インプットに関与していることが示唆された。次に、CNQX及びD-AP5適用により4-10 Hzの自律的な発火を示す阻害性ペースメーカー様ニューロン活性をスクリーニングしたところ、400 mT磁界ばく露後に活性が減少することが確認された。これらの結果を、培地での誘導電界の推定値と比較したところ、同期バースト活性の変化は0.3 V/m以上で生じることがわかった。これは外部電界を用いた先行研究の知見と同等であった。加えて、この結果は、400 mTの高強度の電力周波数磁界ばく露後のニューロン活性の増強は、ペースメーカー様ニューロンの自律的活性の抑制に関連していることを示唆している。この結果は、同期バースト活性は高強度の電力周波数磁界ばく露によって増加し、その応答は阻害性ペースメーカー様ニューロン活性の低下によるものであることを示唆している、と著者らは結論付けている。