血液脳関門

(2016年4月時点の英文ウェブページの和訳です)

脳には微細な毛細血管ネットワークがあり、それが栄養分および酸素などを神経細胞に供給しています。これらの血管壁は、身体の他の毛細管とは異なる独特の特質をもちます。脳内血管の内側を覆う内皮
細胞には物質輸送のための小孔(窓形成)がありません。その上、細胞同士はそれぞれの境界でいわゆる密着結合しています。この2つの特質により、ほとんどの物質(グルコースやほとんどのアミノ酸だ>けでなく、薬剤微生物も)が脳内へ無制御に入り込むことを防止しています。ごく少数の低分子に限り、拡散による障害なく内皮細胞の半透性細胞膜を通過する(親油性の物質およびガス)、あるいは密
着結合しているにも拘らず隣接する細胞の形質膜の間の空隙を通り抜ける(例えば、尿素およびグリシン)ことができます。したがって、血液から脳へ、またはその逆方向へ輸送されようとする全ての他の
物質は、特殊な輸送システムにより血管壁の細胞内皮細胞)のチャネルを通り抜けなければなりません。このシステムが、神経細胞血液の間の物質交換を制御し、有害な物質から神経細胞を保護してい
ます。この関門を血液脳関門と呼びます。

理論的には、血液脳関門の透過性亢進は望ましくない物質の輸送、その結果としてもしかしたら脳損傷につながるかもしれません。血液脳関門の透過性は、正常な生理学的条件下においてさえ時間的なゆら
ぎの影響を受けますが、それに加えて外部要因の影響も受けることがあります。ドイツ連邦放射線防護局(BfS, オンライン2016)の声明に拠れば、脳内温度上昇が血液脳関門の透過性亢進を引き起こすことは議論の余地がありません。これは発熱によっても起きますし、ばく露限度値を顕>著に上回る強度の無線周波電磁界により生じる温度上昇の場合にも起こり得るでしょう(ICNIRPにしたがえば、7 W/kgまたはそれ以上で(ICNIRP 2009, p.190))。
研究の目的は、このようなばく露限度値以下の無線周波電磁界によっても血液脳関門損傷されうるか否かを明らかにすることでした。

携帯電話関連の電磁界による血液脳関門の透過性への影響はいくつかの研究で調べられています。この問題に関する全ての実験研究の概観は、EMFポータルの携帯電話に関する研究の概観でご覧になれます。

さまざまな国際および国内の委員会が、無線周波電磁界血液脳関門への影響の証拠に関して現存データを常に評価しています。国際非電離放射線防護委員会ICNIRP)に拠れば、ほとんどの研究がばく露
限度値以下の無線周波電磁界血液脳関門への影響を何も見出していません。影響ありとの結果を得た少数の研究のほとんどは、実験群が小さい、ばく露およびドシメトリの説明が不十分など、方法上の欠
陥がある、年代の古い研究でした。したがって、一定限度の妥当性しかありませんでした(ICNIRP 2009, p.190 ff)。欧州連合の新興・新規同定された健康リスク>についての科学委員会はICNIRPのこの見解に同意しています(SCENIHR 2015, p.128)。ドイツ放射線防護委員会(SSK, 2011, p.23)は、全ての現在の研究の要約およびドイツ移動体通信研究プログラムDMF)の結果を参照
して、ばく露限度値以下の無線周波電磁界血液脳関門への影響に関する十分な証拠を認めていません。したがってSSKは、この問題をこれ以上研究する必要を何ら認めていません。

スイス連邦環境省(FOEN, 2014, p.27)もまた、現在の文献から得られる血液脳関門への影響に関する証拠は不十分とみなしています。FOENに拠れば、ある種の影響を支持する証拠のほとんどの出所は、ただ一つのスウェーデンの研究グループによる数々の研究です(主なものは、Salford et al. 1994Salford et al. 2003Eberhardt et al. 2008Nittby et al. 2009Nittby et al. 2011)。FOENにしたがえば、彼らの研究の全てが、データの収集と分析、ドシメトリの説明に関して方法上の欠陥を見せており、ばく露中に温度が制御されたか否か>を示す情報が提供されていません。さらに言えば、観察された影響は健康上の重要性がありません。これらの研究を別にすれば、血液脳関門への無線周波電磁界の影響に関する証拠は非常に弱いと見なされ
ます。

総括すれば、血液脳関門の透過性に対する無線周波電磁界の影響はないと国際および国内の専門家委員会は考えているとの結論が導かれます。無線周波電磁界の影響に関するWHOからの新たな詳細にわたる>見解は2016年に公表予定です(ファクトシート№193, 2014)。