この研究は、親細胞株MCF-7およびメラトニン受容体(MT1)遺伝子をトランスフェクトしたMCF-7細胞株を用いて、それら細胞の高親和性MT1のシグナル伝達に対する電磁界(EMF)ばく露の影響を調べた。研究の背景として、電力周波磁界が乳がん細胞のメラトニン効率を低下させる可能性への懸念に言及している。ばく露群(1.2 μTの正弦波50 Hz EMFへの48時間ばく露)および擬似ばく露群の細胞において、メラトニン刺激後のBRCA-1のプロモータ配列へのcAMP応答性エレメント結合(CREB)タンパク質の結合をゲルシフトアッセイにより分析し、4つのエストロゲン応答性遺伝子の発現を測定した。その結果、擬似ばく露細胞では、CREBのBRCA-1プロモータへの結合はエストラジオールによって増加し、その後メラトニン処理によって減少した;EMFばく露細胞では、CREBの結合はほとんど生じなかった;擬似ばく露細胞では、親細胞およびトランスフェクト細胞のどちらにおいても、BRCA-1、p53、p21(WAF)、およびc-mycの発現は、エストラジオール刺激で増加し、その後メラトニン処理によって減少した(例外は、トランスフェクト細胞でのp53発現);これにより、メラトニンの抗エストロゲン効果が分子レベルで示された;対照的に、EMFばく露を受けたMT1トランスフェクト細胞株では、メラトニン処理後にp53とc-mycの発現が有意に増加したが、p21(WAF)の発現増加は有意ではなかった;以上の知見は、乳がん細胞におけるメラトニンの抗エストロゲン効果に対してEMFが負の作用をする可能性を示唆する、と報告している。
異なる量のメラトニン受容体(MT1)を発現する乳がん細胞株におけるメラトニンの抗増殖作用(メラトニンは乳がん細胞株の細胞増殖を抑制する)
に対する電磁界の影響を調べること。
根底にある作用機序を解明するため、メラトニンの存在下で、偽ばく露細胞及び1.2µTの50Hz電磁界ばく露した細胞の両方で、乳がん感受性遺伝子BRCA-1の転写の制御、及び、その他の幾つかのエストロゲン関連遺伝子の発現を分析した。
メラトニンによるメラトニン受容体(MT1)の活性化は、更なるシグナル伝達の際、cAMP応答配列結合タンパク質のリン酸化の減少につながる。加えて、乳がん細胞に対するメラトニンの影響は、エストロゲン受容体の存在に依存する。これは、エストロゲン受容体が陰性の乳がん細胞の成長はメラトニンによって抑制されないためである。対照的に、エストロゲン受容体が陽性の乳がん細胞の成長はメラトニンによって抑制されるので、電力周波数及びマイクロ波電磁界は乳がん細胞に対するメラトニンの効率を低下させ得るという懸念が生じている。
ばく露 | パラメータ |
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ばく露1:
50 Hz
ばく露時間:
continuous for 48 hr
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周波数 | 50 Hz |
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タイプ |
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波形 |
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ばく露時間 | continuous for 48 hr |
ばく露の発生源/構造 | |
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ばく露装置の詳細 | incubator consisting of a 75 cm long copper tube with a diameter of 30 cm, closed at both ends with copper plates; bifiliar coil wound around this tube; field inside the incubator highly homogeneous |
Sham exposure | A sham exposure was conducted. |
測定量 | 値 | 種別 | Method | Mass | 備考 |
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磁束密度 | 1.2 µT | - | - | - | - |
偽ばく露細胞では、cAMP応答配列結合タンパク質とBRCA-1遺伝子のプロモータとの結合が、エストラジオールによって増加し、その後のメラトニン処理によって減少した。1.2µT電磁界にばく露した細胞では、cAMP応答配列結合タンパク質の結合はほぼ完全に除去された。
4つのエストロゲン受容体遺伝子の発現は、形質移入した細胞株でのp53の発現を除いて、どちらの細胞株でもエストラジオール刺激によって増加し、その後のメラトニン処理によって減少したことから、メラトニンの抗エストロゲン作用(即ち、エストラジオールで刺激した乳がん細胞での細胞増殖の低下)が分子レベルで証明された。対照的に、1.2µTの50Hz電磁界にばく露した、MT1を形質移入した乳がん細胞では、メラトニン処理後にp53及びc-mycの発現が有意に増加したが、p21WAFについては発現の増加は有意ではなかった。
これらのデータは、乳がん細胞におけるメラトニンの抗エストロゲン作用に対する電磁界の負の影響を証明している(即ち、エストラジオールで刺激した乳がん細胞におけるメラトニンの成長阻害作用を電磁界が低下させる)。MT1の発現が大きく異なる2つの細胞株の比較から、メラトニンによるエストラジオールのこれらの影響の低下は、MT1の発現に明確に依存していることが明らかになった。
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