研究のタイプ: 疫学研究 (observational study)

[携帯電話使用に関連した脳腫瘍リスク:インターフォン国際症例対照研究の結果] epidem.

Brain tumour risk in relation to mobile telephone use: results of the INTERPHONE international case-control study

掲載誌: Int J Epidemiol 2010; 39 (3): 675-694

背景:携帯電話使用の急増が、この技術から生じる無線周波電磁界に関連した健康リスクの可能性についての懸念を生じている。手法:13カ国で共通のプロトコルを用いて、神経膠腫の症例2708人及び髄膜腫の症例2409人、ならびにマッチングした対照について、インタビューに基づく症例対照研究を実施した。結果:携帯電話の定常的に使用したことがある者に関しては、神経膠腫OR 0.81;95%信頼区間(CI)0.70-0.94]及び髄膜腫OR 0.79;95%CI 0.68-0.91]についてのオッズ比OR)の低下が見られた。これは参加の偏りまたはその他の手法上の限界を反映したものであろう。最初の携帯電話使用から10 年以上後のOR 上昇は観察されなかった(神経膠腫OR 0.98、95%CI 0.76-1.26;髄膜腫OR 0.83、95%CI 0.61-1.14)。生涯の通話件数の10 段階区分全て、及び累積通話時間の10 段階区分のうち9 つについて、OR は1.0 未満であった。想起された累積通話時間の10 段階区分の10 番目(1640 時間以上)については、神経膠腫のOR が1.40(95%CI 1.03-1.89)、髄膜腫のOR が1.15(95%CI 0.81-1.62)であった;但し、このグループにおける使用の報告にはありそうもない(implausible)値があった。神経膠腫についてのOR は、脳の他の部位よりも側頭葉で高い傾向があったが、側頭葉の周囲に特定した(around the lobe-specific)CI の推定値は幅が広かった。腫瘍と同じ側の頭部で携帯電話を通常使用すると報告した被験者では、反対側で使用する被験者よりも、神経膠腫についてのOR が高い傾向があった。結論:全体として、携帯電話使用に関する神経膠腫または髄膜腫リスク上昇は観察されなかった。最も高いばく露レベルで神経膠腫リスク上昇が示唆されたが、偏り及び誤差が因果関係の解釈を妨げている。携帯電話の長期間の過度使用(heavy use)による影響の可能性については、更なる調査が必要である。

研究の目的(著者による)

携帯電話使用が脳腫瘍リスクを高めるかどうかを決定するため、13か国において国際的な症例対照研究(インターフォン)を実施した。

詳細情報

インターフォン研究は、携帯電話から発せられる無線周波エネルギーを最も多く吸収する組織における4種類の腫瘍神経膠腫髄膜腫聴神経鞘腫耳下腺腫瘍)に焦点を当て、13か国(オーストラリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、日本、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、英国)で実施される症例対照研究の国際的なセットとして開始された。本論文では、脳腫瘍神経膠腫及び髄膜腫)のリスクについての分析結果を示す。

潜在的なバイアスの発生源を検出するため、感度解析を実施した。

携帯電話の定常的使用は、少なくとも6か月間にわたって少なくとも週1回と定義した。

最終報告 Link

影響評価項目/リスク推定のタイプ

リスク推定のタイプ: (オッズ比(OR))

ばく露

ばく露評価

ばく露集団

グループ 説明
参照集団 1 過去 ≥ 1年に携帯電話使用なし、または非定常的に使用
集団 2 過去 ≥ 1年に携帯電話を定常的に使用
参照集団 3 定常的使用経験なし
集団 4 最初の使用からの期間: 1-1.9年
集団 5 最初の使用からの期間: 2-4年
集団 6 最初の使用からの期間: 5-9年
集団 7 最初の使用からの期間: ≥ 10年
参照集団 8 定常的使用経験なし
集団 9 累積通話時間: < 5時間
集団 10 累積通話時間: 5-12.9時間
集団 11 累積通話時間: 13-30.9時間
集団 12 累積通話時間: 31-60.9時間
集団 13 累積通話時間: 61-114.9時間
集団 14 累積通話時間: 115-199.9時間
集団 15 累積通話時間: 200-359.9時間
集団 16 累積通話時間: 360-734.9時間
集団 17 累積通話時間: 735-1639.9時間
集団 18 累積通話時間: ≥ 1640時間
参照集団 19 定常的使用経験なし
集団 20 累積通話件数: < 150
集団 21 累積通話件数: 150-349
集団 22 累積通話件数: 350-749
集団 23 累積通話件数: 750-1399
集団 24 累積通話件数: 1400-2549
集団 25 累積通話件数: 2550-4149
集団 26 累積通話件数: 4150-6799
集団 27 累積通話件数: 6800-12799
集団 28 累積通話件数: 12800-26999
集団 29 累積通話件数: ≥ 27000
参照集団 30 過去 ≥ 1年に同側での携帯電話使用なし
集団 31 過去 ≥ 1年に同側での携帯電話使用あり
参照集団 32 非定常的ユーザー
集団 33 同側使用、最初の使用からの期間: 1-1.9年
集団 34 同側使用、最初の使用からの期間: 2-4年
集団 35 同側使用、最初の使用からの期間: 5-9年
集団 36 同側使用、最初の使用からの期間: ≥ 10年
参照集団 37 非定常的ユーザー
集団 38 同側使用、累積通話時間: < 5時間
集団 39 同側使用、累積通話時間: 5-114.9時間
集団 40 同側使用、累積通話時間: 115-359.9時間
集団 41 同側使用、累積通話時間: 360-1639.9時間
集団 42 同側使用、累積通話時間: ≥ 1640時間
参照集団 43 非定常的ユーザー
集団 44 同側使用、累積通話件数: ≥ 150
集団 45 同側使用、累積通話件数: 150-2549
集団 46 同側使用、累積通話件数: 2550-6799
集団 47 同側使用、累積通話件数: 6800-26999
集団 48 同側使用、累積通話件数: ≥ 27000
参照集団 49 非定常的ユーザー
集団 50 反対側使用、最初の使用からの期間: 1-1.9年
集団 51 反対側使用、最初の使用からの期間: 2-4年
集団 52 反対使用、最初の使用からの期間: 5-9年
集団 53 反対側使用、最初の使用からの期間: ≥ 10年
参照集団 54 非定常的ユーザー
集団 55 反対側使用、累積通話時間: < 5時間
集団 56 反対側使用、累積通話時間: 5-114.9時間
集団 57 反対側使用、累積通話時間: 115-359.9時間
集団 58 反対側使用、累積通話時間: 360-1639.9時間
集団 59 反対側使用、累積通話時間: ≥ 1640時間
参照集団 60 非定常的ユーザー
集団 61 反対側使用、累積通話件数: ≥ 150
集団 62 反対側使用、累積通話件数: 150-2549
集団 63 反対側使用、累積通話件数: 2550-6799
集団 64 反対側使用、累積通話件数: 6800-26999
集団 65 反対側使用、累積通話件数: ≥ 27000

調査対象集団

症例集団

対照集団

調査規模

症例 対照
適格者 7,416 14,354
参加者 5,190 7,658
評価可能 5,117 5,634
その他:

髄膜腫の症例2409人及び神経膠腫の症例2708人

統計学的分析方法: (調整: )

結論(著者による)

神経膠腫OR 0.81;CI 0.70-0.94)及び髄膜腫OR 0.79;CI 0.68-0.91)について、定常的な携帯電話ユーザーに関連したリスク低下が認められた。これは恐らく参加バイアスまたはその他の手法上の制約を反映したものであろう。最も高いばく露群(累積通話時間 ≥ 1640時間)において、神経膠腫OR 1.40;CI 1.03-1.89)及び髄膜腫OR 1.15;CI 0.81-1.62)のリスク上昇が認められた;但し、この群にはありそうにない数値の報告があった(例:5時間/日を超える携帯電話使用)。神経膠腫についてのリスクは、脳の他の葉よりも側頭葉で高く、腫瘍同側の頭部で携帯電話を通常使用した(同側使用)と報告した被験者で反対側使用よりも高い傾向があった。
著者らは、全体としては携帯電話使用に関連した神経膠腫及び髄膜腫リスク上昇は認められなかった、と結論付けた。最も高いばく露レベルでの神経膠腫リスク上昇及び髄膜腫のやや低いリスク上昇の示唆があった。

研究の限界(著者による)

バイアスと誤差が結論の強さを制限し、因果的解釈を妨げている。

研究助成

この論文に対するコメント

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